世界中でインフレが続く中、2023年もペットオーナーは価格上昇に対して強い耐性を見せた。ペットの家族化が進んでいることで、高品質で栄養価の高い機能性ペットフードが引き続き求められている。本記事では、今後もペット飼育数の増加が見込まれる世界市場と、販売チャネルに変化が見られる日本市場について、それぞれのトレンドを解説する。
世界市場について
世界のペットケア市場全体の小売金額は、過去10年で約2倍に成長している。その他多くの産業と同様に、ペットケア市場もインフレの影響を大きく受け、2023年の世界のペットフード売上では小売数量ベースでマイナスだった一方、小売金額ベースでは大きく伸びた。
向こう5年の年平均成長率は米ドル換算で5.5%と更なる拡大が見込まれており、過去5年の年平均成長率の8%から若干低くなる見通しだが、まだまだ注目産業として新規参入が各国で活発に行われることが予測される。
ペットケア市場拡大に大きく影響するのが飼育数の増加だ。ペットケア市場世界トップのアメリカ、アジア最大の中国、ペットケア市場第3位のブラジル、ドイツやインドなど、多くの国で飼育数が今後も増加する見込みだ。
ペットケア市場の大部分を占めるペットフードを消費するベース(飼育数)がさらに大きくなること、これに加え、ペットフードのプレミアム化が進んでいること、ペットテックやペットヘルスケアに見られるペットと飼い主を豊かにするイノベーションが多数登場していることなどが寄与し、世界のペットケア市場は今後も安定的に拡大を続けるだろう。
日本市場について
日本市場における主なトピックは以下の3つである。
- 猫の飼育数が増加、大型犬は大幅減
- 機能性ペットフードが好調
- ドラッグストア・Eコマースでの販売が好調、ホームセンターは客足戻らず
猫の飼育数が増加、大型犬は大幅減
2023年の日本国内のペット飼育数では、上下しながら拡大を続けてきた猫の飼育数が、ついに900万匹を突破した。10年前との比較では約60万匹増加しており、日本の住環境や共働き・単身世帯の増加など、現代のライフスタイルに合う猫の人気が続いている。2024年は2023年の増加の反動で若干のマイナスとなる見通しでありながら、大幅に減少することは無いと予測している。
出所:ユーロモニターインターナショナル Passport
一方で、犬の飼育数は減少を続けており、特に大型犬(体重23㎏以上の犬種)の飼育数は、2023年は30%近く減少し、10年前からは半数以上の大幅減となった。飼育数の増減は、ペットフードやケア用品などの売上に直接的に影響している。
日本国内ペットケア市場では依然として高い比率を占めるドッグフードにおいて、食べる量が多い大型犬や中型犬の減少は、数量ベースでの売上減に直結する。猫の飼育数は増加しているものの、将来の日本国内人口や世帯数の急速な増加が見込めないことから、メーカー各社は数量ベースの成長ではなく、プレミアム商品や商品単価が高くても選ばれる商品の開発に引き続き注力すると見られる。
出所:ユーロモニターインターナショナル Passport
機能性ペットフードが好調
ペットフードの数量ベースでの成長に限界がある中、国内の大手メーカーの商品においては機能性ペットフードのブランドが特に好調だった。機能性ペットフードのSKU数は増加しており、訴求している機能性の種類も多様化している。ドッグフードでは関節や、キャットフードでは歯磨きなどの訴求が人気となっている。
また、7つや8つなど複数の機能性を訴求しているペットフードが大変好調に推移している。これらは特定の健康課題にアプローチする目的だけでなく、日常的な健康維持・病気の予防などの目的で購入される傾向にある。
Eコマース・ドラッグストアでの販売が好調、ホームセンターは客足戻らず
販売チャネル別の動向では、Eコマースとドラッグストアでペットフードの販売が拡大している。Eコマースは豊富な商品数や利便性という強みの他に、実店舗よりも低価格で売られているケースがあり、物価高が続く中で価格優位性を見せている。
ドッグフードにおいては、ペットケア市場の主力チャネルであるホームセンターの売上をEコマースが初めて上回った。ホームセンターは、新型コロナウィルスの影響で遠のいた客足が、Eコマースやドラッグストアなどのチャネルに流れたまま、回復できずにいる。
ドラッグストアでは、店舗で目につきやすい売り場でペットフードやケア用品が売られることが増えている。ドラッグストアは人間の飲料や食品の販売を戦略的に拡大しており、ペットオーナーにとっては、自分たちに必要なものとペットに必要なもの、両方を購入できる日々のお買い物のメインチャネルとして拡大している。
まとめ
今後の世界のペットケア市場は、飼育頭数の拡大に後押しされ、小売数量・金額ともに、さらなる飛躍が見込まれている。
一方で、日本のペットケア市場は、飼育頭数の伸び悩みが原因となり、小売数量ベースでは減退しながらも、金額ベースではプレミアム価格帯が牽引する形で拡大する見込みだ。しかしながら、数量ベースでの成長という純粋な需要増に期待が出来ない中、金額ベースでの成長も鈍化する可能性は大いにある。日本国内の所得の上昇は限定的でありながら、ペットフードの1㎏あたりの単価は上昇を続けている。価格増に耐えられなくなったペットオーナーが価格の低い商品を選択する、トレードダウンが見られるようになると、プレミアム価格帯に支えられている現状の成長スタイルから、数量増も金額増も叶えられなくなる可能性がある。
出所:ユーロモニターインターナショナル Passport
対照的に、アメリカやブラジル、イギリス、中国やドイツといったペットケアの巨大市場においては可処分所得の中央値が2020年から2023年まで上昇している。アメリカとブラジルは、所得の上昇幅よりもペットフードの単価上昇幅が大きいが、中国とドイツでは所得の上昇幅がペットフードの単価上昇幅を上回っている。これらの国々のペットオーナーの購買力は、可処分所得中央値の上昇がみられない日本よりも力強い。日本国内のペットケア企業にとって、商品輸出の強い追い風である円安を味方に、海外市場での売上確保を図る絶好のタイミングが来ていると言えるだろう。
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