※本記事は英語でもご覧頂けます: The New Normal Q&A: Changes Set to Stay After Coronavirus
ユーロモニターインターナショナルは、世界的なアナリスト・ネットワークを駆使し、消費者市場を変容させる6つの新型コロナウイルス(COVID-19)のテーマを特定しました。その一つに「The New Normal: What’s Here to Stay?(「ニューノーマル」な世界にとどまるトレンドは?)」があります。今後の消費者の働き方、買い物の仕方、飲食の仕方や遊び方は、長引く自粛生活や「リスク回避志向」に大きな影響を受けるでしょう。考え方の変化や経済不況によって人々の裁量支出や自己顕示的な支出は減り、より自分や家族の予防的健康や免疫力の向上に重きを置くようになります。
ユーロモニターは、2020年9月9日に開催したデジタルイベントで、パンデミック後の世界において、どのトレンドが残り続けるのか、そして企業はどのように変化に順応していくか、について議論しました。イベント参加者からの質問に対する当社の回答は以下の通りとなります:
1. 健康とウェルネスの優先順位が高まっていますが、ホームフィットネスのトレンドは今後も定着すると思いますか?もしそうであれば、新しい形のエクササイズを市場に持ち込むような、新しい企業・ブランドの台頭が予想されるでしょうか?
我々はホームフィットネスは長続きするトレンドだと考えています。スポーツジムや他のフィットネス施設が通常営業に戻れば、人々は利用を再開することが予想される一方で、多くの人々は依然として再開に慎重であり、またそれらの施設も使用者数を制限して営業していることから、希望する全ての人々が施設を使用できるとは限りません。このことが、現在のホームフィットネスのトレンドを加速させています。
ワクチンがないことやソーシャルディスタンス対策が未だに続いていることから、現在の状況は今後も当面変わらないと思われます。重要なポイントは、消費者が自宅でフィットネスをすることに慣れてきており、習慣化しつつあることです。ホームフィットネスは手軽で、自分の予定に柔軟に合わせることが出来ます。フィットネスは、今後ますますジムと自宅との組み合わせが進むものと見ています。
このトレンドにより、今後より多くの企業がホームフィットネスおよびデジタルフィットネスの領域に進出することが考えられます。テクノロジーの進歩により、COVID-19の発生以前から既に、オンラインフィットネスクラスやバーチャルレースといったイベントへの参加が可能になっており、デジタルを活用した自宅でのエクササイズサービスは大きな市場になりつつあります:
・スポーツアパレル小売業のLululemon (ルルレモン)は、アスレジャー商品の売上が、3月より2倍に跳ね上がっていますが、同社はスマートワークアウトディスプレーのMirror(ミラー)を買収しました。ミラーは、インターネットに接続可能な壁掛け式のスマートディスプレーを1,495米ドルで販売しており、ユーザーは月額39米ドルの会費でボクササイズから瞑想のクラスまで様々なプログラムに参加することが出来ます。
・Peloton (ペロトン):ペロトンのCEOは、世界には2億人の日常的なジム愛好者がいるとし、同社はそのうちの半分の人々の「1週間の中の1日」をターゲットにしようとしています。 現在、ペロトンは310万人の会員に対し、ライブクラスやオンデマンドクラスを提供しています。会員の中には月12.99米ドルの料金で、スマホやタブレットからプログラムに参加するだけのサブスクライバーがいる一方、110万人(前年比113%増)は月39米ドルを支払い、ペロトンの機器を通じてワークアウトクラスに参加しています。
・2020年9月、Apple(アップル)は月額制のバーチャルフィットネスクラスであるFitness Plus (フィットネスプラス)の提供を開始しました。元々はApple Watch向けのサービスとして提供されていましたが、現在はiPhoneやiPad、Apple TVとも連動しており、月額9.99米ドルまたは年額79.99米ドルで利用できます。ユーザーは高価な設備を用意することなく、サイクリング、トレッドミル、コアトレーニング、筋トレ、ローイング、ヨガといったクラスに参加でき、心拍数や肺活量といったデータをスクリーン上で確認することが出来ます。
フィットネストレンドの加速が、心の健康といった他の重要なテーマと深く相関していることは、瞑想クラスや体と心の健康の両方を目的としたフィットネスクラスの増加に表れています。デジタル化の波は、今後もCOVID-19の規制が続き、在宅勤務をする人々が増え続ける限り続くでしょう。ロックダウンが解除された後もスポーツジムとバーチャルフィットネスが共存していくものと思われますが、従来のライブトレーニングで汗をかきたいという思いから、実際のジムに戻っていく人も増えるでしょう。
2. 「全ての企業は自らを『ウェルネス企業』であると考えなければならない」と言われていましたが、現在見られるトレンドと併せてより詳しく説明して下さい。
COVID-19の発生により、健康ウェルネスを探求する消費者の姿が浮き彫りになりました。より多くの人々が基本的な予防対策を取るようになり、健康的なライフスタイルに順応し、そして心の健康を助ける商品やサービスを求めています。パンデミック後の世界では、自宅が人々にとっての健康の拠点となり、デジタルヘルスや遠隔ヘルスケアへの需要が高まることが予想されます。
健康が人々にとっての優先事項になる中、業界を問わず、全てのビジネスおよび企業が公衆の衛生を促進し、顧客や従業員の衛生と安全を守っていく必要があります。健康は、これからのあらゆる製品開発にとって恒久的な要素になると考えられます。
2019年 世界の消費者の健康に対する認識
(世界の回答者が各項目を選択した割合(%))
ロックダウン解除後のウェルネスを定義するのは免疫の健康と衛生:
免疫の健康が叫ばれる中、免疫力を高めるとされるビタミン剤やサプリメント製品(ビタミンD、ビタミンC、亜鉛、マルチビタミン等)の売上が伸び続けています。「健康な腸を保つことが健全な精神状態に繋がる」という「脳腸相関」のコンセプトを持つムードフードなど、自然な健康に重きを置いた「薬としての食品」という考え方も広がりつつあります(ただし、腸内を綺麗にしすぎることはかえって体に悪影響を及ぼすという懸念の声があることも事実)。免疫力向上を訴求する飲料等(CBDやウコンといった原料が使用された製品)は今後、売上が伸びるでしょう。
透明性:美容製品間で高まる自然原料志向、そして抗不安・ストレス効果を有する原料への人気が集まる中、使用原料および調達先の透明性への意識は未だかつてないほど高まっています。
衛生的な健康:「リスク回避志向」が長引く中、消毒剤などは引き続き売上を伸ばすものと考えられている一方、再利用パッケージを使った商品や古着等の売上には、衛生的な観点から一時的な影響が出ることが考えられます。
3. 語られたCOVID-19の打撃の多くが、西側および先進国市場に関するものでした。新興市場におけるニューノーマルとの違いをどのように見ていますか?
講じられた規制や法律は、国や地域によって異なり(例:酒類、たばこの販売規制、マスク着用の義務化、ロックダウンの厳格さ)、それらによってロックダウン解除後の消費者トレンドも変わります。より新しいトレンドは先進国市場で生まれており、新興市場が自国の伝統的な文化的枠組みの中でそれらを追従する傾向があるようです。新興国・地域の中には、デジタル化の推進といった領域において、デジタル機器の不足や、不安定な電力事情といった理由によって遅れをとっていたり、健康ウェルネス意識の高まりから、ナチュラル飲食品が再び人気を博している国や地域があるなど、様々です。
パンデミックの影響により、新興国で需要の高まりが予測されるのが、デジタルファイナンスサービスです。多くの新興・途上国では、未だに現金が最も一般的な支払方法であり、地元の消費者は、露店や個人商店で買い物をしています。
こういった商店は多くの場合、高い手数料、新しい方式への拒否感や不信感といった理由からデジタル決済の導入率が低いものの、パンデミックの発生によって、現金からのウイルス感染への警戒感やWHOが現金決済を控えるよう推奨したことが、オンライン決済の普及にプラスの影響をもたらしました。
4. 経済の見通しについてですが、COVID-19は今後のトレンドにどのような影響をもたらすと考えますか?また、COVID-19の発生を受け、新しいトレンドは生まれるでしょうか?
我々が(COVID-19発生前に)特定した2020年の世界の消費者トレンドと、より長期的なメガトレンドの殆どは、COVID-19によって加速されているものの、停滞しているトレンドもあります。ユーロモニターのウェビナー「Coronavirus: Implications on Megatrends」と「How is COVID-19 affecting the Top 10 Global Consumer Trends for 2020」で、詳しく説明しておりますのでご覧ください。
2020年も終わりに近づき、2021年が迫りつつありますが、経済状況の悪化および長引くウイルスの脅威が、これからの消費者動向に更なる影響をもたらすものと思われます。顕著な消費者反応の一つが節約・支出控えです。今に始まったトレンドではありませんが、今後更に顕著化することが予想されます。企業は消費者の「低価格がすべてではないが、支払う額に最高の価値を求める」ニーズを考慮していかなければなりません。
5. 消費者の貯蓄について伺います。すでに消費者は貯蓄をし始めていますか?今後、貯蓄率はどのように推移するでしょうか?
パンデミックは、人々の貯蓄に2つの影響をもたらしました。まず、ロックダウンによって今後の収入の見通しが不確定になったことを受け、予備的な貯蓄をする人々が増えました。加えて、休業や自宅待機によってお金を使う機会が制限されたことから、図らずも貯蓄額の増加に繋がっています。
米国の商務省経済分析局(U.S. Bureau of Economic Analysis)によると、2020年4月の同国の個人貯蓄率は可処分所得の33.7%を占めましたが、ロックダウン規制が緩和され、先行き不透明感が薄らいだことで同年7月には17.8%にまで下がりました。しかし、同率がパンデミック発生前の5年間は6%から8%の間で推移していたことを考えると、以前として非常に高い貯蓄率であるといえます。
人々がコロナと共に生活するようになり、求人市場における不透明感も和らぐ中、個人貯蓄率が2020年4月のレベルにまで上がることは考えにくいでしょう。しかし、パンデミックによる先行き不透明感が今後更に高まる場合(例えばワクチンの開発が遅れたり、世界的な感染拡大の波が発生した場合等)、貯蓄率は過去よりも高いレベルで推移し続けると予想されます。労働市場と同様、貯蓄率も通常のレベルに戻るのは数年先になりそうです。
6. プレミアム化のトレンドは今後も継続すると考えますか?それとも、消費者はプレミアム製品の価格に対して、より慎重になるでしょうか?
2020年、世界経済は大恐慌以来最悪の不況に突入すると予想されています。2008年から2009年にかけての世界金融危機といったこれまでの不況時と同様、雇用の喪失、ビジネスや政府支出の縮小が、多くの消費者の所得の増加を阻むことになります。
前回の世界不況から生まれたトレンドの一つが「中間所得者層の苦戦」でした。中間所得者層の所得レベルは数年に渡り低迷し、生活水準も下げざるを得ませんでした。結果として、派手な浪費は控え、コストパフォーマンスを求め、過去の購入経験に基づいた買い物をするようになりました。
パンデミックを受け、人々の焦点はやはり金額に見合う価値にシフトしつつあります。プレミアム化のトレンドは存在し続けますが、健康・衛生的な付加価値や気分を高める効果など、消費者が必要と感じるものによって「何がプレミアムなのか」が決まります。中国などいくつかの国でロックダウン解除後に発生したリベンジ消費やペントアップ需要は限定的なものと見られています。
重要なポイントは、全ての消費者の優先順位が変わったことです。人々のフォーカスは、より多くの物を買うことから、より良い人生を生きることにシフトしており、心身の健康をサポートする高品質な商品を求めるようになっています。不況下において買い物に慎重になることとは別に、ロックダウンの発生によって人々はあまり移動をしなくなりました。モノを持って外出することが少なくなったため、人々はモノを減らそうと考えるようになります。
7. 今後、都市の中心部がパンデミックから完全に復帰することはあるでしょうか?人々が週5日の出勤に戻る日は近いでしょうか?
パンデミックの発生により都市生活が終焉するのでは、という声が上がっています。世界中でロックダウンの措置が取られたことで、人々は生活、仕事、買い物、そしてレジャー活動を自宅でするようになりました。在宅勤務制度はCOVID-19の感染拡大前から既に存在していましたが、パンデミックによって在宅勤務が世の中の主流となり、ビデオ会議といったテクノロジーもそれを後押ししています。パンデミック収束後の世界でも在宅勤務がますます増え、より多くの企業がフレキシブルな勤務制度を導入していくことが予想されますが、社員同士の協力やアイディアの交換といったことを促進するためにも、在宅勤務とオフィス出勤の組み合わせが見られるでしょう。
また、郊外や地方への移住に対する関心の高まりも予想されています。数か月のロックダウン期間および在宅勤務を経て、人々はスペースを求めるようになりました。2020年は不況が予想され、来年も経済の先行きが不透明な中、都市部における高い生活費や移動費も、消費者が地方での生活を検討する理由です。例えば2019年、ロンドン市民の総支出に占める住宅費の割合が32%であったのに対し、英国の他の都市部では23%でした。
ただし、都市生活が全くなくなるというわけではありません。ワクチンが開発されれば、都市での暮らしは再び人々を惹きつけるでしょう。都市は経済活動の中心であり続け、高い生活水準、アクセスの良さ、そしてネットワークの接続性を誇ります。パンデミックの影響により、都市部は健康・衛生対策を強化しながら進化し、公共のスペースにおける消毒や非接触・タッチレスの技術の導入は標準化していくでしょう。世界人口に占める都市人口の割合は、2019年の56%から2040年には64%に増加すると予測されています。
先進国および新興・途上国ごとに見る都市人口 2010年~2040年
Source: Euromonitor International from national statistics
8. サステナビリティの観点から、現在のプラスチック容器の使用増加は一時的なものだと考えますか?長期的には紙の容器の方が人気になるでしょうか?
パンデミックの発生により、健康や安全の懸念が高まったことから、パッケージ入りの小売製品は需要が高まりました(パッケージが保護層として機能するため)。また、自主隔離対策により、消費者が買い物の回数を減らしたことから、大きなパッケージサイズの製品が選ばれるようになりました。パンデミックによってサステナビリティの取り組みは一時的に停滞したものの、引き続き幅広い分野において、サステナビリティに対するコミットメントは継続しています。
プラスチック容器は、衛生面の理由だけでなく、飲料をはじめとした多くの製品にとってオンライン販売に最も適した容器タイプであるため、今後の焦点はいかにしてプラスチック容器の再利用率を向上させるかにあるといえます。キャップなしのタイプや、乳製品用のより小さいサイズのパッケージ(より小さな容量で同じ価格を維持する、という側面もある)など、サステナブルなプラスチック容器のイノベーションも進んでいます。
また、プラスチック容器の代替製品として、より多くの企業が紙製容器を導入し始めています。Nestlé(ネスレ)はスナック菓子のYesバーを紙製の包装に切り替え、Coca-Cola (コカ・コーラ)は欧州において、再利用が難しい飲料製品用のプラスチック製マルチパックの使用をやめ、代わりに紙製マルチパックを導入しました。原料資源の持続可能性も重要な課題です。FSC(森林管理協議会)認証の容器を導入する企業が増え続けています。現在はEコマースの売上の急増によるプラスチック製容器の需要の増加、といったニュースの陰に隠れがちですが、近い将来、大きな注目を集めることが予想されます。
Contributing Authors:
Alison Angus, Head of Lifestyles
Media Eghbal, Head of Content Strategy, Economies and Consumers
Zora Milenkovic, Head of Drinks & Tobacco Research
Giedrius Stalenis, Economist