2022年、パンデミック後の世界のビューティー&パーソナルケア市場の回復は、インフレ率の急騰、物価高騰、そしてサプライチェーンのひっ迫によって減速した。消費意欲の回復や、デジタルエンゲージメントへの取り組みの加速、また、旅行や社交の機会の再開が見られるものの、2023年に入ってもビューティー&パーソナルケア業界には、未だに課題が存在している。本記事では、ユーロモニターが特定した、消費者に付加価値を与え、ビューティー&パーソナルケア製品の購入に影響を与える5つの主要トレンドを深掘りしていく。
ビューティー業界におけるプレミアム化とお手頃感:価格により一層敏感になる消費者たち
インフレは、ビューティー&パーソナルケア市場に大きな影響を与え、消費にも変化をもたらしている。世界的な高インフレを受け、ビューティー&ヘルス関連製品がより高価になったことで、消費者が購入できる製品の選択肢が狭まった。こうした影響の度合いは、消費者セグメンテーションによって異なる。
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・インダストリー:ビューティーサーベイ(2022年6-7月実施、n=20,320)
ユーロモニターが世界40カ国の消費者20,320人を対象に、2022年の6月から7月にかけて実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ビューティーサーベイ」調査によると、「スキンケア製品を購入する際に重視するのは、価格に関連する製品特徴(コスパ、複数の機能的価値、低価格など)である」と回答した消費者は、前年に比べ2.5%ポイントの増加を記録した。
“2022年、より多くの世界の消費者が、スキンケア製品の購入時に価格を重視するようになった”
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・インダストリー:ビューティーサーベイ(2022年6-7月実施、n=20,320)
また、同調査の結果は、品質重視の消費者やプレミアム製品志向の消費者も、キャンペーンの活用や手ごろな価格のブランドの選択など、以前より低価格を求めるようになったことを示唆している。しかし、2022年、価値重視の消費者にとって価格は、前年に比べ、重要度が下がっている。これは一見、矛盾しているように思われるが、価値重視の消費者は、価格上昇が避けられないことを受け入れ、代わりに多機能・マルチベネフィットのスキンケア製品に集中するようになっていることを示唆しているとも言えるだろう。2022年、効能重視の消費者も前年にくらべ、より価格に敏感になった。このように消費者が支出習慣を見直しているなか、2023年、「価値」のコンセプトは、さらにダイナミックに進化を続けていくことが予想される。
原料主導型ビューティー:グリーンケミストリー(環境に優しい科学)によって注目が集まる、イノベーションにおけるバイオテックの役割
製品リコールや、注目を集めている訴訟(縮毛矯正剤をめぐる訴訟など)が起こる中、消費者のビューティー製品に配合されている成分に対する意識は、ますます高まっている。パンデミックの発生により、肌が物の表面に触れることへの意識が高まったり、ロックダウン期間中、消費者が調べものをする時間が増えたりしたこともあり、単一成分のブランドへの関心の高まりと、その業績を後押しした。ビューティー製品に対する規制が最も緩い国々でさえ規制の厳格化を検討しており、例えば米国では、2022年に化粧品近代化規制法(Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022)が成立している。
出所: R+B
マレーシア初のサーキュラーブランドである「R+B」は、環境意識の高い消費者に応えるために、植物由来の成分をスキンケア製品に配合している。同ブランドは親しみやすい成分の配合を前面に押し出すことで、ブランドに対する消費者の信頼を急速に高めている。
サステナビリティやバイオテクノロジー、他国のビューティーコンセプトに対する消費者の意欲は高まり続けている。ビューティー&パーソナルケア業界で台頭する、環境の持続可能性と先端バイオテクノロジーが融合した「グリーンケミストリー」は、有害物質を排除し、バイオ成分を追加、あるいは従来の成分をバイオ成分に置き換えることに焦点を当てている。「アップサイクル 」は、製造時に発生する副産物や廃棄物を、使用可能な成分に変換することを意味する最新のグリーンケミストリー・イノベーションであり、2023年に加速することが予想されるセグメントだ。
境界線がなくなるウェルネス分野:広がるビューティーと関連カテゴリー
パンデミックの発生以来、ホリスティックな健康・衛生に対する消費者ニーズの高まりを受け、消費財業界の各社は、従来の製品ポートフォリオと併せ、新たな健康ニーズに対応する製品の提供を急いだ。カテゴリー間の境界線があいまいになり、ホームケア、栄養食品、アパレル、サプリメントといった製品カテゴリーをまたいだハイブリッドな製品の提供拡大が進んでいる。
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・インダストリー:ビューティーサーベイ(2022年6-7月実施、n=20,320)
これは、2023年以前から見られた傾向ではあるが、ビューティー分野と他分野、特にコンシューマーヘルスとの融合は、今後も勢いを増すことが予測される。
“世界の消費者が選ぶ「美」の定義No.1は「健康的に見えること」であった”
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・インダストリー:ビューティーサーベイ(2022年6-7月実施、n=20,320)
健康を美しいとする考え方は、特にベビーブーマーとX世代の消費者にとって重要である一方、ミレニアル世代とZ世代が重きを置くのは予防衛生であり、今後、企業やブランドが、消費者から「ホリスティックな健康の推進者」として信頼を得るためには、予防衛生ニーズに応えることが鍵となるだろう。
女性のヘルス&ウェルネスを支援する:幅広い領域に横たわるニーズ
女性のエンパワーメントやジェンダーインクルーシブを唱える声が広がる中、女性の健康に対する意識の高まりは、2023年以降もビューティー&パーソナルケア業界に顕著な影響を及ぼすと考えられる。女性の健康には、思春期、出産期、更年期、さらにそれ以降といった、女性のライフステージごとに求められる様々なケア領域が存在する。女性向けウェルネス・ソリューションの領域で満たされていないニーズを特定することは、企業にとっても従来のイノベーションを越えた新しい製品・サービスの提供を考える機会につながる。
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・インダストリー:ビューティーサーベイ(2022年6-7月実施、n=20,320)
例えば、ホルモンバランスの乱れと肌や髪の変化(乾燥、薄毛、弾力性)の関連性をより深く理解することで、ライフステージや更年期、母体の健康など、それぞれのニーズに合わせたソリューションをビューティールーティンに組み込むことを提案する、といった展望が開ける。同様に、フェムケアやセクシャルウェルネスといった分野の探求は、よりホリスティックな健康を支援する戦略の、自然な延長線上にあるものだろう。ビューティーブランドにとっての課題は、市場参入の方法を含むこの領域への投資計画の策定、そして、女性ホルモンに関連する製品やサービスに対する市場の受容性や消費者ニーズの査定を、如何にして行うかである。
機能から情緒へ:ビューティー&パーソナルケア分野で台頭する神経科学の適用
消費者が新しいモノや革新性を求める中で、メンタルヘルスや社会的価値といった情緒的な価値が、ビューティー製品を求める消費者の購買決定において、不可欠な要素となっている。
出所: Yahoo
米国のキャンドルブランド「Nette」は、人工知能と神経科学を組み合わせたIFFの「Science of Wellness」の分析結果をもとにキャンドルやフレグランスを制作するなど、神経科学を活用している。
神経科学、特に脳波の検出は、情緒的な機能性を査定するための生体計測信号として使用され始めている。感情的な反応を引き出す「ニューロセント」のコンセプトは神経学的に証明されている。今日、同コンセプトは香料・原料メーカーに、新製品を提供するだけでなく、消費者を啓蒙する新しい機会をもたらしている。
求められ続けるのは、消費者を啓蒙し、喜ばせ、価値を提供するビューティー&パーソナルケア製品
2022年につづき、2023年の消費者マインドおよび購買力は低迷しており、市場の見通しにはますます慎重にならざるを得ない。ただし、パンデミック発生以前から今日に至るまで、ビューティー製品を求める消費者たちは、常に新しいモノと革新性を求めている。
“世界のビューティー&パーソナルケア市場は向こう5年で年平均3%の成長が見込まれている”
出所:ユーロモニターインターナショナル
2023年、消費者はビューティー&パーソナルケア製品の購入に対し、より慎重になると考えられるが、企業にとっては上記の5つの主要トレンドを通じ、自らを専門分野のエキスパートや信頼できる案内役として位置づける商機も十分に生まれるだろう。
地域ごとやカテゴリーごとに、ビューティー関連製品における商機や将来の展望を特定したい方は、ユーロモニターのレポート「World Market for Beauty and Personal Care」で詳細をご覧いただきたい。
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