グローバル化と可処分所得の増加に伴い、アジア太平洋地域の消費者は「自分」を優先するようになっている。この傾向はCOVID-19によって更に加速した。本記事では、台頭する個人主義とセルフケア意識がもたらす3つのビジネスチャンスについて考える。
消費者の優先順位の変化
アジア太平洋地域、特に東アジアでは、社会規範を尊重し、家族を重視する昔ながらの集団的な価値観が今なお強い。こうした価値観の背景には、単一民族であることや、移民の少なさが関係している。実際に、この地域は多くの欧米諸国と比べ、民族的多様性がはるかに低い。しかし、長期にわたる行動制限措置という前代未聞の事態を受け、多くの消費者は集団的な価値観の妥当性や、個人よりも社会を優先する考え方に対し疑問を持つようになった。
加えて、アジア太平洋地域は、急速な世帯構成の変化に見舞われている。同地域における単身世帯の割合は、2022年には17%と、中東・アフリカ地域に次いで世界で下から2番目の低さだった。しかし、2040年には、アジア太平洋地域の単身世帯率は25%になることが予想されるなど、世界で最も急速な増加が見込まれている。
単身世帯の増加の一因は、未婚者の増加だ。東アジアでは伝統的に、結婚が重要な社会制度として機能してきたが、一人で生きることを積極的に選ぶ若者が増えている。
単身者向けの住宅、食品、サービスの拡大
単身世帯の増加により、小規模な住宅へのニーズが高まっている。東アジアの国々では、2040年にかけ、集合住宅の増加率が戸建ての増加率を大きく上回ると予想されている。そのため、限られたスペースでも快適な暮らしを可能にするオールインワン家電や、省スペースで多目的に使える家具など、一人暮らしの生活に沿った製品へのニーズは今後も増すだろう。
家族世帯に比べ、単身世帯は自分で料理するより外食や総菜を購入する人が多い。こうした傾向を反映しているのが、日清食品から発売された「完全メシ」だ。栄養バランスを追求した製品シリーズで、自分一人のために栄養価の高い料理を作ることに時間をかけたくない一人暮らしの人には魅力的な商品だ。ファミリー層をターゲットとする企業は、単身者の増加を睨み、パッケージサイズや訴求の仕方を変えていく必要があるだろう。
集団主義のアジア諸国においては、一人で何かをすることは伝統的に一般的ではない。しかし、この状況は徐々に変わりつつあり、特にパンデミックによって「一人行動」に対する印象は大きく変わった。一人旅や一人外食など、一人客に特化したサービスは新たな需要に応えることができるだろう。
感情的、精神的、そしてホリスティックなウェルビーイングを優先する傾向の高まり
アジア太平洋地域の消費者は、アルコールとの付き合い方を見直しつつある。Sober curious(ソバ―キュリアス)とは、お酒を飲む人が摂取量を意識的に控える行動を指すが、このトレンドはアジア太平洋地域におけるノンアルコール/低アルコール飲料の需要を押し上げている。特に、パンデミックの流行下で、2021年にはその需要が急増した。
消費者は、飲酒習慣、ストレス発散、睡眠の質など、ウェルビーイングを見直すために積極的な行動を取っている
出所:ユーロモニターインターナショナル
仕事とプライベートの境目がますます曖昧になるにつれ、特に若年層におけるストレスの影響が顕著になっている。ストレスの上昇は睡眠の質を低下させる。そのため、消費者はより良い睡眠をもたらす製品や、アダプトゲンやGABAといった、ストレス処理の働きを助ける天然成分に魅力を感じている。
また、生活費の高騰やインフレを受け、消費者は手の届く範囲でのプチ贅沢を楽しむようになっている。「キャンドル効果」はその一例で、アロマキャンドルやクッションといった小さなインテリアアイテムの人気が高まっている。ライフスタイルの改善や生活空間に対する考え方の変化によって、自宅の居心地の良さを高めようとする消費者は今後も増えるだろう。
アジア太平洋地域における美意識の変化
個人主義の台頭や自己意識の目覚めは、アジア太平洋地域において、特に若い世代の美意識に変化をもたらしている。
外見的な美しさに重きを置く伝統的な美意識と、個人主義の新たなトレンドが共存している
出所:ユーロモニターインターナショナル
この新たなトレンドは、ボディポジティブ(ありのままの体型を愛そうというムーブメント)や肌の色の多様性を奨励し、外見よりも内面の美しさに焦点を当てている。
ファッションは美意識の変化に大きな影響を与えている。アジア太平洋地域のファッション市場では、フィットスピレーション(健康維持や運動のモチベーションを高めてくれる人物やサービス)のようなトレンドが、スリムさを好む風潮と格闘している。中国のMaia Activeや韓国のMulawearといったアジア発のスポーツウェアブランドの台頭は、同地域の消費者にとって、ボディポジティブの概念の重要性が増していることを示している。
美容業界においては、肌の色の多様性も重要性を増している。根強い美白への執着はありつつも、アジア市場でも自然な肌色を受け入れる傾向が高まっている。中国では、特にZ世代に人気のある大胆な色合いのカラー化粧品の浸透も進んでいる。
消費者もまた、美に対するよりホリスティックなアプローチへのシフトを鮮明にしつつある。美は、外見的な価値観よりも、内面的な価値観とより密接に結びつけられる考え方が広がりつつあり、クリーンビューティーや美容サプリメントの市場ポテンシャルを後押ししている。製品開発とマーケティング戦略は、今後ますます多様化する美意識に寄り添っていくことになるだろう。
詳細は、ユーロモニターのレポート「Asia Pacific Consumer Trends: How Self-love and Individuality are Taking Centre-stage 」をご覧いただきたい。