2023年も12月に入り、終わりが見えてきた。昨年と同様に、今年も当社が年初に発表したホワイトペーパー「2023年 世界の消費者トレンドTOP10」を、筆者の目線で振り返る。なお、筆者は国内の家電や洗剤、家庭紙、家具や玩具・ゲームなどの調査を担当している。
本記事では、全部で10あるトレンドのうち、筆者の調査領域と関わりが深い下図で囲った3トレンドを取り上げる。
Eco Economic: エコで経済的
大量生産、大量消費、また大量移動や大量のエネルギー消費などを控えることで、サステナビリティ社会に貢献するトレンド。家電と家具の事例を見てみよう。
まず家電の事例は、ヤマダデンキを運営するヤマダホールディングス。2022年5月にヤマダ東日本リユースセンター群馬工場の新工場を増設したことで、リユース製品の生産台数が従来の二倍以上になる見通しだ。白物家電では、これまで続いてきた各社の改善のおかげもあり、進化のペースが遅くなってきたカテゴリーも多い。必ずしも最新機種でなくても構わないという世帯も多い。メルカリの隆盛やiPhoneのユーズド品の増加により、家電の中古品への抵抗も薄れてきた。ヤマダホールディングスは、セカンドハンド製品が家電購入時の安いオプションとして上がりやすくなってきたこのような状況に、目標設定や情報公開を含めて広範囲に対応できている家電量販チェーンのひとつだ。
次に家具の事例としてニトリを挙げる。同社は国内家具のリーディングプレイヤーとして、サステナビリティにも力を入れてきた。印象的だったのが、2021年度のグッドデザイン賞を受賞した、「廃棄時に分解しやすいポケットコイルマットレス」だ。そのソリューションのみならず、ポケットコイルマットレスの廃棄が、自治体で悩みの種になっているという社会問題を知らしめたという、啓蒙的な側面も大きい。多くの消費者が、ベッドやマットレスに静かな社会問題が潜んでいたことをこの話を通じてはじめて知ったのではないだろうか。ニトリは2022年度にも、従来は廃棄されていたウレタンの端材を利用したサステナブルな敷布団によって、また2023年度にも、サステナブルなカーペットや布団クリーニングサービスによって、グッドデザイン賞を受賞している。
Revived Routines: 戻ってきた日常
ポストコロナ時代に入り、ニューノーマルに移行した活動や習慣もあれば、新型コロナ以前へ巻き戻ったものもある。日常のあり方が新型コロナ前よりも多様化した中、どのような「日常」が戻ってきただろうか。
新型コロナが特に猛威を振るっていた2020年から2021年にかけて、減少していた国民病がある。それは、風邪と花粉症だ。人々はこれまでになく慎重にマスクをし、外出を控え、他人との会話に気をつけた。その結果、風邪は減少し、花粉症の悩みも減った。それがよくわかるのが、風邪薬と抗アレルギー薬 <Cough, Cold and Allergy (Hay Fever) Remedies> と家庭用の箱ティッシュ <Retail Boxed Facial Tissues> の販売金額の昨対成長率の推移だ。2019年から2020年にかけて減少し、2022年からは本格的に回復傾向にある。良くも悪くも、戻ってきた日常の一つと言える。
風邪薬と抗アレルギー薬 <Cough, Cold and Allergy (Hay Fever) Remedies> と家庭用の箱ティッシュ <Retail Boxed Facial Tissues> の販売金額の昨対成長率、2018~2023年
今年の半ばから、日本の主要都市および観光地で顕著に見て取れるのが、インバウンドの復活だ。当社のデータでも、インバウンドの回復は力強い。2023年、インバウンド旅行客による出費の中で「Experience」に焦点を当ててみると、回復どころか、すでに2019年の水準を超える勢いだ。また、インバウンドと並行して復活してくるのが宿泊施設でのティッシュやトイレットペーパーの消費だ。当社の「Away from home(業務用)」のティッシュやトイレットペーパーのデータでも、回復が予測されている。
Experiencesにはスキー、キャンプ、ダイビングなどを含む。2019~2028年(2023年以降は予測)
Young and Disrupted: 型にはまらない若者たち
2023年の年初に公開したブログ記事「2023年の世界の消費者トレンドTOP10を考察する」には、Z世代が「今後ビジネスの常識を壊していく」「ソーシャルメディアは、自分を表現するための舞台でもあると同時に、新たな発見をするための検索エンジンであり、お金を稼ぐチャネルでもある」とある。
ライフスタイルの変化によって、製品の常識が壊されている例として、テレビが挙げられる。スマホに押されて不要になるか、とも言われていたテレビだが、しっかりと生き残っている。ここ数年の中で特色のあった製品としては、パナソニックが2021年に発表したレイアウトフリーテレビや、Amazon・ヤマダホールディングス・船井電気のコラボレーションで2022年に誕生したFire TV搭載のスマートテレビが挙げられる。
特定のメーカーに限らない変化は、チューナーレステレビの増加だ。チューナーがないというのは、地上波放送が見られず、インターネット経由での利用を前提とするということだ。小売企業からPB製品として、また比較的安さを武器にするブランドからも展開されてきた。2023年10月から国内テレビ業界に参入した小米(シャオミ)の製品群も、チューナーレスだ。TVerなど、地上波の番組をオンラインで見る選択肢が充実してきたことも含め、テレビのこれまでの在り方や常識が変わってきたと言えよう。
家電以外だとソーバーキュリアス、すなわち「敢えてお酒を飲まない」文化も、若者を中心に広まってきている。この動きについては“日本がリードするアジア太平洋地域のソバーキュリアス”もあわせて参照されたい。
また、ソーシャルメディアには、表現・つながり・検索・収入に加え、ショッピングを行うチャネルという側面も生まれてきている。アジアでは中国やインドで既にその傾向が強く、日本にもじわじわと入ってくるのではないだろうか。アジアでの話については“2023年版 アジア太平洋の急成長小売企業TOP10”を参照されたい。
2024年のトレンドはどうなるか
以上、「2023年の世界の消費者トレンドTOP10」を、筆者の調査分野を中心に見てきた。2023年の世界の消費者トレンドTOP10は、ポストコロナやインフレ、DEIを感じるものだった。2024年はより新型コロナの影響が薄まり、インフレの今後は不透明だが、DEIはより前進する一年となろう。なお、「2024年 世界の消費者トレンド」は例年より早く、11月16日に発表済みだ。ユーロモニターがどのような切り口で2024年の世界を予見しているか、是非ご確認いただきたい。
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