第59 回スーパーマーケット・トレードショー2025(SMTS2025)が2025年2月、東京で開催されました。一般社団法人全国スーパーマーケット協会(NSAJ)が主催するこの展示会は、食料品分野に関わるさまざまな業界関係者のつながりを育んできた実績があります。ユーロモニターインターナショナルは2024年に続き、同展示会において世界の小売トレンドについてセミナー登壇の機会をいただきました。本記事では、今年の展示会場から伺えた、日本の小売業における実店舗の役割について考察します。
Eコマースの成長の中で問われる実店舗の役割
世界の小売市場において、Eコマースは引き続き成長しており、全小売市場における比率はコロナ前の2019年の14%から、2024年には20%を超えました。日本も世界ほどの増加ではないものの、例外なく、Eコマースの市場占有率は2019年の12%から2024年は15%まで伸びています。ネットスーパーの選択肢の拡充、クイックコマースなどラストマイル配送の課題への取り組みなどによって、今後もEコマースは食品小売にとっては引き続き注目されるチャネルになることが予想されます。
一方で、SMTS2025を通じて考えさせられたのは、このような Eコマースチャネルの成長に伴う実店舗の役割です。また、この展示会を通じて社会的な課題解決を含め、実店舗(リアル店舗)は小売業を超えて、今後の日本社会そのものの機能を支える重要な役割を果たしていることを実感しました。
実店舗が目指すのは、人が集まるコミュニティハブ
NSAJが開催にあたって発行した“『2025年版スーパーマーケット白書』<第2章>スーパーマーケットが抱える課題”においても「スーパーマーケットは、地域経済や地域社会を支えるハブ、コミュニティとしての役割などが求められている」とあります。SMTS2025の出展企業間でも、小売という業態を超え、「人の集まる場所」「再び来店したい店舗づくり」を意識したサービスの紹介が多く見られました。
小売 × 健康チェック:国分グループ本社株式会社は以前から「健康コミュニティ」創出に向けたさまざまな取り組みを行っています。SMTS2025では、店内に美容・健康測定器の設置するソリューションが紹介されていました。スーパーがただ日々の買い物をする場所から、定期的に訪れ、自身の健康レベルを測る場所にもなれば、来店目的が増え、再訪問が期待できます。また、外出が億劫になってしまったお年寄りにも外出する目的や楽しみが増えることが予想されます。
小売 × カラオケ:2024年に続き、株式会社第一興商は店内に小型のカラオケボックスを設置するサービスを紹介していました。こちらも、買い物にエンターテイメントの付加価値を提供することで新たな楽しみだけでなく、交流を生む場としての活用が期待されています。
小売 × 交流:サンデン・リテールシステム株式会社はトレーラーハウスに最新の自販機を設置した、主に高齢者をターゲットにした新たな交流の場づくりを提案していました。無人で運営できる自販機のメリットと、設置の手軽さ、災害などの有事の際の活用を想定したトレーラーハウスという店舗形態も特徴的でした。サンデン・リテールシステム株式会社は高齢者のフレイル予防の一環として、このような気軽に訪問でき、コミュニティ・会話ができる環境が必要だとも訴えていました。
サンデン社の自動販売機(撮影:ユーロモニターインターナショナル)
来店頻度が高い日本のロイヤルな(忠誠心の高い)消費者
では、このような取り組みや各種設備の導入は、小売業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ロイヤル(忠誠心の高い)顧客の獲得・育成という観点で改めて考えてみたいと思います。
ユーロモニターインターナショナルが日本国内の食品小売市場(Grocery Retailer)における一人当たり年間消費額(Market Size Per Capita)とロイヤルな顧客(※)の一人当たり年間消費額(Average Loyalty Consumer Spend)を比較した表が以下の通りです。2020年から2024年にかけてロイヤルな顧客のほうが一般的な消費よりも20-40%多く年間消費していることが分かり、この金額差の背景には来店頻度の違いが大きいということも明らかとなりました。
※ ロイヤルな顧客:ユーロモニターインターナショナル ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(世界40カ国)において、「ポイントカードを持っている(ロイヤルティプログラムの会員/メンバーである)所で買い物をすることが多い」と回答した消費者。
顧客ロイヤルティの獲得のカギは来店頻度の向上
ロイヤルな顧客の獲得・育成は小売側に大きなメリットをもたらします。上記の通り、来店頻度を増やし、結果年間消費額を増やすことができるためです。
SMTS2025を通じて、スーパーマーケット及び実店舗の役割とは、小売や営利目的を超えたある種「公益」や「社会インフラ」としての存在意義であるべきことを強く感じました。人口減(少子高齢化)、労働力不足に悩む日本にとって、社会インフラとしての実店舗の役割は今後ますます注目を集めることが予想されます。
一方、Eコマースの成長が進む小売業界において、実店舗の業態を維持する小売業にとって確実な事業化、つまり利益が見込める構造づくりも同時に求められます。サービスに焦点を当てた店舗運営は来店頻度向上や顧客ロイヤルティの獲得につながり、このような社会的意義の役割を果たしつつ、事業の利益率の維持・改善につながるのではないでしょうか。
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