※本記事は英語でもご覧頂けます:Net Zero and Carbon Neutral Claims Under Scrutiny
地球温暖化による気温の上昇が続く中、カーボンニュートラルあるいはネットゼロ経済を実現するというビジョンが、政治的そして社会的な努力によって示されている。企業レベルでは、欧米の大企業のほとんどが、2050年までにカーボンニュートラルやネットゼロを達成するための計画を公表している。事実、EUでは従業員500人以上の社会的影響度の高い企業に対し、毎年のサステナビリティ情報の開示が義務付けられており、2023年からはさらに要件が厳しくなる(新基準による開示は2024年から)とされている。中国では今のところ、環境への影響に関する詳細な情報の開示が義務付けられているのは、特に環境へもたらす影響が大きいと考えられる企業のみだが、上場企業のESG(環境・社会・ガバナンス)指数の報告義務化に向けた動きが徐々に進んでいる。
ユーロモニターが企業関係者を対象に行ったサーベイ調査によると、気候変動対策への投資に関する質問では、エネルギーの効率性と有効性に対する投資が優先順位のトップとなり、調査対象企業の過半数が、現在これらの分野に投資しているか、または今後数年以内での投資を計画していることがわかった。一方、効率性の向上とカーボンオフセットを同時に行っている企業は36%に過ぎず、例えば植樹プロジェクトの株を購入したり、化学物質の製造過程で排出されるCO2を回収して再利用したり、農業で土壌の炭素を復元したりするといったカーボンキャプチャー(二酸化炭素回収)を行っている企業はわずか13%に止まっている。カーボンオフセットとカーボンキャプチャーは、どちらも企業の環境的なバランスを実質ゼロに近づけることできるアクションである。
企業による気候変動対策への投資
Source: Euromonitor International Voice of the Industry: Sustainability Survey
Note: Fielded in June 2021
ネットゼロ、カーボンニュートラル訴求の人気が高まる
ユーロモニターの「商品訴求とポジションニング」データベースに明らかなように、カーボンニュートラルまたは炭素削減を訴求する製品は、特にホットドリンク、加工食品、おむつ・生理用品産業の間で人気が高まっている。とはいえ、こうした訴求をしているSKUの数は、産業全体のSKUの総数の0.1%にも満たない。しかし、気候変動に関する国際会議の開催や活発化する消費者運動、そして異常気象の頻発といったことを背景に、カーボンニュートラル/炭素削減を訴求する製品が急成長している現状は、10年ほど前に代替肉や代替ミルクが市場に現れたときと似ている。
環境に優しい表示ラベル:産業別、カーボンニュートラル/炭素削減を訴求する製品
先行する西欧、次ぐ勢いの北米
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の交渉においても述べられたが、気候変動のアジェンダは、西欧および北米地域の国々が牽引している。これらの地域の国々は、化石燃料の段階的な削減のための国際的な合意を推し進めてきた。また、カーボンニュートラル/炭素削減の訴求を最も使用しているのも、西欧および北米の企業である。ユーロモニターが2021年に業界関係者を対象に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:サステナビリティ」サーベイ調査によると、西欧地域の回答者の46%が「法規制に遵守するためにサステナビリティ関連の投資をしている」と答えている。また、世界の業界関係者の69%が、サステナビリティへ対応する理由について、「顧客からの印象やブランドの評判を意識しているため」と回答している。
一方で、アジア太平洋地域では、生鮮食品と加工食品の分野でカーボンニュートラル/炭素削減を訴求するSKUが増えている。韓国では同国の農林畜産食品部(日本の農水省に当たる)が、全国平均よりも高い環境効率性で生産している農場に対してGAP(Good Agriculture Practice、優秀農産物管理)認証を発行しており、オンラインストアで販売されている果物のうち、0.4%がGAP認証を受けている。こうした韓国の気候変動に関する認証政策もあり、アジア太平洋地域は、生鮮食品分野においてカーボンニュートラルを訴求する製品が多い地域となっている。こうした気候変動に関する認証の導入は他の国々でも進んでおり、例えばスウェーデンでは、食品や花を対象とした気候認証Svenskt Sigillがある。しかし、特に様々な異なる原料が使用される加工食品分野においては、国際水準となる包括的な認証はまだ無い。
広告規制当局からの批判を受けるネットゼロ訴求
共通の気候認証制度の導入は、企業がカーボンニュートラルやネットゼロに対する取り組みを上手に伝えられていない状況の中で、解決策になり得る。世界共通の標準的な計算方法があれば、現在は意欲に欠ける多国籍企業が、気候認証に対して投資する動機となるだろう。
例えば、Arla Foods(アーラフーズ)は、2019年にスウェーデンでネットゼロ・オーガニック乳製品を発売した。これら製品に伴い発生する温室効果ガス(GHG)の排出はすべて、削減または補償(オフセット)されている。スウェーデンでアーラフーズと契約する有機酪農家は、再生可能な電力のみを使用しており、2022年までに100%非化石燃料の電力を使用する予定だという。しかし、同社は、このような訴求が消費者を誤解させるものであるとして、政府機関である消費者オンブスマン(Konsumentombudsmannen)から訴訟を起こされている。
スウェーデンの広告業界の自主規制機関である広告オンブスマン(Reklamombudsmannen)は、2020年と2021年、気候に対して何かしら良いことであると謳う広告を17件不許可とし、許可したものは1件もなかった。ドイツや英国の同等の機関も、同様の姿勢をとっている。英国の広告基準局(Advertising Standards Authority)は、2020年にQuorn(クオーン)による代替肉の消費が「正しい方向への一歩」であり、カーボンフットプリントの削減につながる、と謳う広告を認めなかったほどだ。いずれの広告規制当局も、環境に関する訴求を行う際は、サステナビリティを測定するための「広く受け入れられている手法」による「確固たる証拠」の必要性を訴えている。
また、欧州委員会(EC)と各国の消費者関連機関は2021年1月、環境に優しい製品の販売を謳った企業ウェブサイトにおけるEU消費者法違反の実態を探るために実施した調査の結果を発表した。
この調査によると、環境に配慮した製品を求める消費者が増加していることから、グリーンウォッシュ(ごまかし・上辺だけの環境配慮)が拡大しているという。調査結果を見ると、37%の企業が「conscious(意識が高い)」、「eco-friendly(エコフレンドリー)」、「sustainable(サステナブル)」といった、曖昧な表現を使用していることが判明した。同調査によると、こうした表現は消費者に「その商品が環境に悪影響を与えない」という根拠のない印象を与える。企業は、消費者に対し、訴求を裏付ける明確な証拠と、その正確さを判断するための十分な情報を提供する必要があり、そうでなければ罰金を科せられるリスクを負うことになる。
米国の規制当局である連邦取引委員会(FTC)は、環境訴求の増加を受け、2022年中に環境訴求に関するガイドラインを更新する。米国におけるFTCの影響力と、最後に更新されたのが2012年である現行の環境訴求に関するガイドラインの乏しい実用性を考えると、今回刷新される新たなガイドラインは、米国以外の規制当局や企業にとっても注目すべきものである。
真剣な気候変動対策によって維持されるネットゼロに対する消費者の信頼
植林による炭素回収などは、「植えられた木が遠い将来、伐採されないとは言い切れない」という意見と共に、永続性が保証されないとして批判されている。ドイツのWettbewerbszentrale(競争センター) は、オフセットによって達成されるすべての気候中立の訴求を不許可としている。ただしこれについては、広告主である企業が無理な基準を課せられ、結果としてコスト負担が増加し、気候変動緩和の足かせとなっている。FTCとECの継続的な取り組みは、カーボンニュートラルに対する真摯な取り組みがしっかりと伝えられることで消費者の信頼が守られることを保証し、同時に、GHG排出量削減に対する貢献を意図せず無くしてしまうことがないようベストプラクティスを確保する、すべての企業・人々に受け入れられるバランスのとれたアプローチをもたらすだろう。
より詳細な情報については、レポート『Sustainable Eating and the Environmental Cost of Food』(有料)をご確認ください。
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