※本記事は英語でもご覧頂けます:The Fight Against Food Waste
世界が持続可能性と収益性のバランスをとろうと模索している中、食品廃棄物問題は、そうした努力の多くを無駄にしてしまう可能性がある。近年の持続可能性の追求における技術向上や、環境負荷削減に対する国際的な圧力の高まりもあり、多くの国々がバリューチェーンのあらゆる段階で、食品廃棄物削減に向けた新たな対応策を模索している。
深刻な問題
食品廃棄はバリューチェーンの全ての段階において発生するが、その深度は段階によって異なる。どのような廃棄物なら削減できるのか、どの段階ではインフラ改革が必要なのかをよく理解するためには、食品ロスと食品廃棄を分けて考えることが重要だ。食品ロスが最終消費者の手元に届く前に食べられないと判断されたものである一方、食品廃棄物とは、サプライチェーンの一連の流れを経て、消費できる状態で最終消費者の手元に届いたものの、廃棄されることとなった食品と定義される。前者が主に食品サプライチェーンの初期段階である生産時や収穫後、加工時などで発生するのに対し、食品廃棄物が最も多く発生するのは小売と消費の段階である。
食品廃棄物は、経済的にも環境的にも、バリューチェーンの下流にいけばいくほど高くつく。消費者による食品廃棄は、収穫段階での廃棄に比べ、より大きな経済および環境的な負担となるからだ。食品廃棄物の量の問題だけでなく、食品廃棄が食糧システム全体にもたらす環境および経済的影響を考えると、食品と消費者の関係性の見直しは急務である。
食品廃棄物は、環境に修復できない打撃を与えている。水などの有限な資源を枯渇させ、土壌の肥沃度にダメージをもたらし、バリューチェーンのあらゆる段階で発生する食品廃棄にはエネルギーの消費が伴う。なお、温室効果ガス(GHG)総排出量の約8~10%は、食品廃棄物によるものである。米国環境保護庁(EPA)の報告によると、米国のごみ埋立地で最も大きな部分を占めているのは食品であり、都市廃棄物の24%にも及ぶ(US EPA 2020)。
2021年は、世界のいくつかの地域において、前例のないほどの猛暑や致命的なまでの洪水が発生するなど、気候変動がもたらす問題が顕著であった。しかし、これはまだ、産業革命前から地球の気温が1.1度上昇したことによる影響の始まりでしかない。
改革の必要性が迫られるフードシステム
フードシステムには課題がつきまとうが、それが食糧安全保障であれ、食品廃棄やバリューチェーン全体に関わる課題であれ、歴史的に見るとそれらに対するアプローチは、常に受け身であった。このことは、食品を取り巻く環境の変化への対応が、いつも後手に回っていることを意味し、故に課題解決の進展を妨げてきた。
これまでもフードシステム改革のコンセプトは、理論的には語られてきた。しかし今、気候変動の抑制、枯渇しつつある資源の保全、そしてこれからの世代のために持続可能な食糧流通網を維持することが、かつてないほど切実に求められている。
収穫後の食品廃棄がどこで発生するかをよく調べ、効率性を高めることで、食品廃棄の多くは確実に軽減できる。さらに、新しい技術や循環型経済といった経済形態を導入することで、生産・流通能力を向上させることもできるだろう。
持続可能な食糧システムを実現するための包括的な戦略
持続可能な開発目標の達成に向けて努力する国々にとって、一貫したアプローチを取ることが、継続的な成果を得るために重要である。食品廃棄物の削減目標を達成するためにベンチマークを設定している多くの国々を分析すると、すべての利害関係者を巻き込んだ取り組みを行うことが最も効果的であるようだ。持続可能な資源活用を推進する英国の非営利団体Waste and Resources Action Programme(WRAP)の報告によると、同国では農場出荷後の食品ロスや食品廃棄物をすでに27%削減している。これは、政府と企業、そして消費者が一体となって取り組んだ結果である。
世界が食品廃棄物の問題を見直し、多くの小売業者やメーカーが食品の意味や価値を再考するようになった。こうした認識の変化から多くの新しい取り組みが生まれ、何トンもの野菜や果物が廃棄から救済されるとともに、小売業者にとっては新たな収入源となっている。
世界中の消費者は、自分たちの行動が環境に与える影響についてますます意識するようになり、消費者からブランド・企業へと、ボトムアップによる変化を促している。消費者の意識が高まるにつれ、小売業者やブランドに対し、より環境的に持続可能なソリューションを導入するよう求める声も高まっており、そうした要求への対応として、食品廃棄物の削減は不可欠な方策になりつつある。
どのような飲食品にお金をかけようとするか(2021年)
このような消費者意識の変化を捉え、活用していくことができるか、そして自社のアジリティを高めることができるかが、今後10年間、市場ダイナミクスが変化する中でブランドが安定して持続的に成長していけるか、または淘汰されていくかを左右するだろう。環境意識が高い消費者が益々増える中、そうした消費者層を取り込むべく、多くのブランドが、持続可能な生産・調達領域に革新的なソリューションを導入している。
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(翻訳:横山雅子)