[2024年4月追記: 日本のカンナビス市場に関する無料レポート「日本のカンナビス市場最新トレンド」を公開しました。フォーム入力不要でどなたでも閲覧できます。本記事と合わせてご覧ください]
ユーロモニターは2023年11月に、日本国内のカンナビス市場に関する調査の最新版を公開した。日本のカンナビス市場はリラクゼーション、睡眠、ストレス緩和といった需要から、2019年の約40億円から2023年には約240億円と、4年間でおよそ6倍に拡大している。
当社が一年前に公開した記事でも触れた通り、これまでは、同カテゴリーを取り巻くネガティブなイメージと合わせて、法的な不確実性やグレーゾーンもあり、国内の主要企業による同分野への投資や参入は積極的には見られなかった。しかし2023年、大麻取締法が75年ぶりに改正されたことで今後の状況は大きく変わり、医療、健康、美容、飲料、食品など多様な分野で、カンナビジオール(CBD)の活用が加速することが期待される。
[用語解説]
- カンナビス:植物分類上の大麻草の英名。
- カンナビノイド:大麻草に含まれる物質群の総称で、主にテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)の2つが知られている。
- カンナビジオール(CBD):カンナビノイドの一種で、THCとは異なり精神活性作用を起こさない。カンナビジオールは、一部の国では医療用途に承認されているエピディオレックスという薬の主成分でもあり、近年は健康食品としても注目されている。
75年ぶりの法改正:違法大麻使用者の増加が背景に
ユーロモニターはカンナビス市場を、違法市場と合法市場の2つに分けて見ている。合法市場には、日本でも流通しているCBDを使用した医薬品、および一般用製品が該当する。それぞれの市場は、販売数量や販売額を示す市場規模と、ユーザー数で追跡している。そして日本の人口のうち、違法大麻を少なくとも年に一度使用する消費者の割合は0.12%と推測している。これは、特に欧米諸国と比較した場合、非常に低い数値だ。
しかし、近年では日本国内での違法栽培や、国際郵便や海外からの商業貨物を利用した密輸が増加傾向にある。SNSや暗号化アプリ経由で違法販売業者や犯罪組織と容易に接触できる環境も整いつつあり、10代から30代の若年層を中心に違法大麻の使用者は増加し続けている。
国内違法大麻使用者数 2019年~2023年
※国立精神・神経医療研究センター、法務省、警察庁、公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター発表のデータに基づきユーロモニター推計
今回の大麻取締法の改正の背景には、こうした違法大麻市場および使用者の急速な拡大が関係している。詳細は後述するが、2023年時点の国内違法大麻市場は、合法CBD市場の約2.5倍の規模となっている。日本では戦後間もない1948年に大麻取締法が制定され、大麻が禁止物質になって以来、これまで大きな法改正はなかった。
しかし、諸外国における大麻規制の見直しもあり、日本国内でも規制変更の機運が高まり、2021年に厚生労働省が大麻取締法の見直しのための有識者会議を設置した。そして2023年、大麻取締法は75年ぶりに改正されることが閣議決定された。
改正案の内容は主に規制の強化と、医薬品への活用解禁の二つがある。まず、海外産であれば輸入・販売が可能な合法成分であるCBDと異なり、大麻草の主要成分のうち脳に作用するTHCは引き続き麻薬として規定される。さらに、これまでも処罰対象であった大麻の無許可栽培、販売、所持に加えて、新たに大麻の使用に対する罰則を設ける方針も明らかとなった。
一方で、大麻草由来の医薬品の国内使用は認める方針で、抗てんかん薬のCBD製剤として知られるレピディオレックスの実用の見通しがたつことになった。これに伴い、現在は繊維や種子の採取、および研究目的でのみ認められている大麻草の栽培を、医薬品などの原料採取の目的でも認めるとされた。
この法改正によって、日本でも多くの産業に残存するCBD活用に対する規制上のグレーゾーンが将来的に一掃され、政府の管理下において産業全体の健全な育成が進む可能性が示された。
2026年にCBD市場は違法大麻市場を上回る見込み
国内カンナビス市場内訳(売上額ベース) 2023年、2026年
出所:ユーロモニターインターナショナル
※Medical Cannabis: 処方箋を伴う、特定の病気や疾患の症状の治療を目的とした、未加工の大麻植物、その抽出物、またはカンナビノイド製剤のいずれかを含む市場。
※CBD: 処方箋を伴わない、CBDやその他の非精神活性カンナビノイドを使用した製品を含む市場。ベイプ、チンキ剤、オイル、スプレー、飲料、食品、カプセル、外用剤、プリロールが対象。THCを全く含まないか、法的許容限度を下回る微量のTHCしか含まない。THCもCBDも含まず、CBG、CBN、CBC等のカンナビノイドを添加した製品もここに含む。
※Illicit Market: 法的に認可されていない未加工の大麻植物、その抽出物、加工品を含む違法市場。
大麻取締法の改正で期待される合法市場の確立
国内違法大麻市場は、2023年には市場全体の7割以上を占める606億円に上り、合法CBD市場の240億円と比べて約2.5倍の規模である。近年、急速に成長しているCBD市場だが、未だに初期段階だといえる。
例えば、CBDを機能性素材として活用した製品としては、株式会社ファインの「ファイングリシン®プレミアム+CBD」や、株式会社チェリオコーポレーションの「CBDX」などが登場しているが、ほとんどの消費者はその認識や正しい理解が限定的だったり、知っていても実際に製品を試しておらず、製品の使用者は一部のアーリーアダプターに限られているのが実態だ。実際にグレーゾーンあるいは規制対象の成分を含む製品が市場で確認される事例もあり、大手企業はこれまでCBD市場への参入に消極的な傾向だった。
しかし、大麻取締法改正法の成立により、将来的にCBD製品の販売や流通に関するガイドラインが明確になる見込みが強まった。2024年以降、様々な業種の大手企業が市場に参入することで、予測期間を通じて市場の売上を押し上げることが予想される。
CBD市場は、製品の品質や安全性の確保、業界・製品ごとの規制への対応、CBD製品のメリットとリスクに関する消費者への啓蒙など、いくつかの課題も存在するが、消費者の間で高まっている健康・ウェルネス志向、特に睡眠改善やストレス緩和に対する需要から、今後も恩恵を受けると思われる。また、身体的な安全性や依存度の低さからも、たばこやアルコールといった従来の嗜好品の代替として期待する消費者も存在する。その結果、CBD市場は2026年には違法大麻市場を上回る見通しだ。
日本のCBD市場:今後の展望
2023年は日本のカンナビス市場にとって転機の年となった。カンナビスおよびカンナビノイドは、世界的には数千年前から医療用、健康用、娯楽用として使用されてきた歴史があるにもかかわらず、国内では合法のCBD製品であっても品質や規制に関する不透明さが残っていた。今回の法改正は、日本のあらゆる産業の中でも成長性が高い分野として注目されているCBD市場の、更なる確立と発展の可能性を示している。医療、健康、美容、飲料、食品などの多くの分野でCBDの活用が進むことで、社会や消費者のCBDおよびカンナビスへのイメージにも変化が生じるだろう。
ただし、大学生をはじめ、若年層への大麻汚染の拡大や、大麻に類似する成分を含むグミによる健康被害のニュースが大きく報道されるなど、日本社会には、CBDおよびカンナビス製品に対する警戒心が、現在も少なからず残っている。企業は法律や規制の順守、品質管理はもちろん、科学的な根拠に基づいた情報提供によって、製品の正しい知識やベネフィットを啓蒙することができるかが鍵となるだろう。
より詳細な市場統計および分析については、レポート「Cannabis in Japan(日本のカンナビス市場)」をご覧ください。